大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7619号 判決

原告

芙蓉総合リース株式会社

右代表者

新下茂

右訴訟代理人

永石一郎

被告

医療法人社団

東京社会病院

右代表者理事

戸田秀美

被告

戸田秀美

右両名訴訟代理人

籾山幸一

被告

小林育雄

右訴訟代理人

安田叡

被告

歌野宏

右訴訟代理人

村野守義

右訴訟復代理人

宮川泰彦

右訴訟代理人

小池通雄

清見榮

主文

一  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自三六三四万五三四七円と、これに対する昭和五三年八月三一日から支払いずみまで、日歩四銭の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五二年三月一五日、被告医療法人社団東京社会病院(以下「被告病院」という。)との間において、次のリース契約を締結した。

(一) 貸主 原告

(二) 借主 被告病院

(三) リース物件 HYCEL MARKX、(米国ハイセル社製)血液分析装置(以下「本件物件」という。)一台

(四) リース期間 借受証発行日から六〇か月

(五) リース料 月額一一八万七〇〇〇円各月先払

(六) 前払リース料 二三七万四〇〇〇円(最終の二か月分)

(七) 遅延損害金 日歩四銭

(八) 借主がリース料の支払を一回でも遅滞したときは、貸主は、通知・催告を要せずして、リース契約を解除し、損害賠償を請求しうる。

2  被告戸田秀美、同小林育雄及び同歌野宏は、原告に対し、前項のリース契約に基づく被告病院の債務につき連帯して保証した。

3  原告は、昭和五二年三月一八日、被告病院に対し、本件物件を引き渡して、借受証の交付を受けた。

4  被告病院は、昭和五二年三月分から昭和五三年五月分までのリース料を支払つたが、昭和五三年六月分以降のリース料を支払わない。

5  原告は、被告病院に対し、昭和五三年八月三〇日到達の書面で、本件リース契約を解除する旨意思表示した。

6  原告は、被告病院の債務不履行により、次のとおり三六三四万五三四七円の損害を被つた。

(一) リース総額 七一二二万円(一一八万七〇〇〇円×六〇か月)

(二) 前払リース料 二三七万四〇〇〇円(二か月分)

(三) リース料収納額 一七八〇万五〇〇〇円(昭和五二年三月分から昭和五三年五月分まで一五か月分)

(四) 未回収リース料 五一〇四万一〇〇〇円(四三か月分)

(五) 商事法定利率年六分の割合による中間利息控除額(別紙計算書のとおり)

五三一万二二九三円

(六) リース物件処分価額

九三八万三三六〇円

原告は、昭和五四年三月二〇日、本件物件を株式会社ムトウへ一〇〇〇万円で売却したが、入金は同年九月一〇日であつた。したがつて、昭和五三年八月三〇日から昭和五四年九月一〇日までの三六七日間の中間利息を商事法定利率年六分の割合にて控除した。

(七) 賠償額 三六三四万五三四七円

(=(四)―(五)―(六))

7  よつて、原告は、被告病院に対して、債務不履行に基づく損害賠償金三六三四万五三四七円とこれに対する解除の日の翌日である昭和五三年八月三一日から支払いずみまで約定利率日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求め、その余の被告ら各自に対し、連帯保証債務として同額の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告病院、被告戸田)

1  請求原因1の事実は認める(ただし、契約日は除く。)。

2  同2の事実中、被告戸田が連帯保証したことは認める。

3  同4の事実は認める。

ただし、リース料の趣旨については争う。

4  同5の事実は認める。

5  同6は争う。

(被告小林)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、被告小林が連帯保証したことは認める。

3  同3の事実は不知。

4  同4の事実は不知。

5  同5の事実は不知。

6  同6は争う。

(被告歌野)

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実中、被告歌野が連帯保証したことは否認する。

3  同3の事実は不知。

4  同4の事実は不知。

5  同5の事実は不知。

6  同6は争う。

三  抗弁(ないし主張)

1  (虚偽表示―被告ら)

本件リース契約は、被告病院が原告から三〇〇〇万円を借り受けるに際し、リース会社が融資することに問題があるため、原告と被告病院とが通謀のうえ、金銭消費貸借契約を秘匿するために本件物件をリースしたように仮装したものである。

2  (利息制限法違反―被告ら)

リース契約の本質は金融である以上、利息制限法の適用を受け、同法に違反する利息部分は無効である。

本件物件の価値は一〇〇〇万円を超えることはない。右購入価格を融資金額とみて、五年後に元利金を一括返済するとしても、利息制限法によれば一七五〇万円を返済すれば足りる。被告病院は、すでに二〇一七万九〇〇〇円を支払つている。

3  (錯誤その一―被告小林、被告歌野)

被告病院は、本件物件の価格を五五〇〇万円程度と信じて本件リース契約を締結したのであるが、後になつて本件物件の価格が一〇〇〇万円程度であることが判明した。したがつて、本件リース契約締結の意思表示は、その重要な部分に錯誤があり、無効である。

4  (錯誤その二―被告歌野)

被告歌野は、被告戸田から、「これにサインしてくれ、これで三〇〇〇万円位の金が借りれる。」旨申し込まれ、金銭消費貸借契約の保証人となる意思で署名・押印したところ、後に本件リース契約に署名・押印したことが判明した。したがつて、被告歌野の保証の意思表示は、その重要な部分に錯誤があり、無効である。

四  抗弁(ないし主張)に対する認否

1  抗弁(ないし主張)1は争う。

2  同2は争う。

3  同3は争う。

4  同4は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一(事実関係)

1  (本件リース契約の締結経緯等について)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被告病院は、昭和五二年一、二月ごろ、株式会社日本医療近代化協会(以下「訴外会社」という。)から、三〇〇〇万円を、利息年一五パーセント、六〇回分割払でリース会社が融資するとの話が持ち込まれた。

(二)  被告病院は、利息が高いので、右話を断つた。

(三)  すると、訴外会社は、リース会社では表向き金を貸付けることができないから、リース物件が付いてくる、リース物件は自動分析機のはずだから、これを利用して検査料が節約できる、と言って、三〇〇〇万円を借りるよう勧めた。

(四)  被告病院は、三〇〇〇万円を借り入れることにし、決算書、経歴書等を訴外会社に渡した。リース物件は、当時被告病院が横浜市西区北幸一丁目四番一号所在の天理ビルに開業を予定した総合美容メディカルで使用することを考えた。

(五)  その後、原告会社の担当者田島久夫が被告病院を訪れ、被告病院の収支状況・人員等を調査した。

(六)  右調査後、被告病院は、訴外会社から、三〇〇〇万円を六〇か月払で融資することに決まつた、総額は原告で決定して契約書を作る、ただし被告病院の方から融資の話はするな、相手もわかつているはずだ、との連絡を受けた。

(七)  昭和五二年三月一五日ごろ、原告の田島久夫が契約書(甲第一号証)を持参した。右契約書には、リース物件HYCEL MARK X、売主株式会社ムトウ、設置場所前記天理ビルメディカル美容室、引渡予定日昭和五二年三月一〇日、リース期間六〇か月、リース料月額一一八万七〇〇〇円、規定損害金の基本額五五〇〇万円と記載されていた。被告戸田は、被告小林及び被告歌野に保証人としての署名・押印をもらつて、右契約書を完成した。二、三日後右契約書を田島に渡した。(なお、原告と被告病院、被告戸田及び被告小林との間においては、本件リース契約が成立したことは争いがない。)

(八)  被告病院は、右契約書作成の際、はじめて、リース物件の種類が米国ハイセル社のマークテンという血液分析装置であることを知つた。

(九)  被告病院は、昭和五二年三月一八日付借受証(甲第二号証)を作成した。しかし、実際には、本件物件の引渡しはなかつた。

(一〇)  被告病院は、昭和五二年三月二四日ごろ、訴外会社から、三〇〇〇万円が用意できた旨の電話を受けた。ところが、実際には約束手形を割り引いたため、現金は二四一四万七二〇〇円しかなかつた。被告病院は、右金員を被告戸田からの借入金として記帳した。

(一一)  ところで、前記天理ビルの賃貸借契約は、昭和五二年三月四日までに入居保証金一六〇一万二五〇〇円を預け入れる約束であつた。しかし、右金員が用意できなかつた。右賃貸借契約は、昭和五二年四月一日付書面をもつて解除された。

(一二)  そこで、被告病院は、本件物件を埼玉社会病院に入れることにした。昭和五二年四月になつて、本件物件は、埼玉社会病院に運び込まれた。検査室には大きすぎて置けないので、一階裏の出入口のそばに置かれた。

(一三)  被告病院は、昭和五二年四月一九日ごろ、原告の求めに応じ、リース物件設置場所変更届(甲第一一号証)と設置場所変更及び原告所有を表示する書類などを撤去・破損しない等記載した念書(甲第三号証)とを作成した。

(一四)  本件物件を搬入後、売主の株式会社ムトウから本件物件を検収したい旨の連絡があつた(被告病院が売主の株式会社ムトウと接触したのは、この時がはじめてである。)。しかし、本件物件を被告病院の検査技師が見たところ、採算のとれる稼動はできないことがわかつた。検収はしばらく待つてもらつた。

(一五)  結局、本件物件について、検収はなかつた。また、本件物件は、カバーをかけたまま、一度も使用されず、放置された。

(一六)  しかし、被告病院は、原告に対し、昭和五二年三月から、毎月リース料名義の金員を支払つた。

(一七)  また、昭和五三年になつて、被告病院は、蒲田税務署の調査を受けた。そこで、本件物件のリース関係が実質的には金銭消費貸借契約ではないか、との指摘を受けた。被告病院は、昭和五三年八月二四日、本件物件のリース料を賃借料として損金処理しないで前払費用として資産計上する旨の更正の請求をした。以後、同様な処理をしている。

2  (本件物件について)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(一)  本件物件は、米国ハイセル社が製造した多種目(一〇種目)任意選択型自動化学分析装置(臨床検査機器)である。

(二)  本件物件は、昭和四六年二月七日にハイセル社から出荷された(約一か月後に日本入荷したと推測される。)。

(三)  北海道大学付属病院は、昭和四五年九月一〇日に本件物件と同種類のハイセルマークテンを購入した。当時の購入価格は二八〇〇万円である。

(四)  米国ハイセル社は、昭和五〇年に一七種目の選択検査が可能なハイセルマークセブンティーンを、昭和五一年にはハイセルスーパーセブンをそれぞれ製造・販売している。ハイセルマークテンは、昭和五二年当時すでに製造を中止している。

(五)  ところで、自動分析装置は、機械の保守・管理が必要である。保守・管理なしでは、事実上自動分析装置を作動させえない。昭和五二年当時米国ハイセル社の医療機械の保守・管理は、二光バイオサイエンス株式会社が行つていた。ところが、二光バイオサイエンス株式会社では、本件物件の保守・管理を依頼されたことがない。

3  証人田島久夫は、前記1の認定に反する証言をし、本件のリース契約が通常のリース契約である旨供述する。

しかしながら、前記2で認定した事実によれば、(一)本件物件は昭和四六年ごろ製造されたもので、当時の価格は二八〇〇万円前後と推認できる。してみると、昭和五二年当時、本件物件をリース物件として、リース料総額七一二二万円、規定損害金の基本額五五〇〇万円とするようなリース契約(前掲丙第二号証によると、六〇か月リース契約で利用者が支払う使用料総額は価格の約1.5倍になるのが通常であると認められる。)が締結されることは、とうてい正常な取引といえない(利用者は、リース料が安くなることを希望するはずである。五年前に二八〇〇万円程度の物件を、リース料総額七一二二万円でリースすることは、通常なリース契約では考えられない。)。更に、前記2で認定した事実によれば、(二)本件物件には、稼動に必要な保守・管理が全くなされていない、と認められる。しかし、正常なリース契約では、借主が自己使用したい物件を売主と折衝して、売主との間で物件を選択・特定し、価格・納期・保守等を決定したうえ、貸主が右決定したところに従つて借主に代わつて物件を購入し、借主に使用・収益させる、という形態をとる。借主が自己使用するために必要な保守・管理(本件物件は医療機器で保守・管理が必要である。)をしないリース契約は通常では考えられない。この点からしても、本件リース契約は、異常である。

右検討した点に照らせば、本件のリース契約が正常なリース契約である旨証言する証人田島久夫の証言は、まつたく信用できない。

他に前記1の認定に反する証拠はない。

二前記一1及び2で認定した事実、並びに、一3で検討した点を総合すれば、本件のリース契約は、原告と被告病院とが通謀のうえ、金銭消費貸借契約を秘匿するため本件物件をリースしたように仮装したものである、と認めるのが相当である。

右認定を覆すに足る証拠はない。

三してみると、その余の点について判断するまでもなく、原告と被告病院との間に有効なリース契約が成立したことを前提とする本訴請求は、理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (小林正明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例